大判例

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広島高等裁判所 平成元年(う)53号 判決

そこで右各論旨における所論にかんがみ記録を調査して検討するに,以下に述べるとおり,原判決には右主張のような理由不備の違法は認められず,また原判決が挙示する証拠を総合すると原判示の事実を認定するに十分であって,当審における事実取調べの結果によるもこれを左右するに至らない。以下に若干補足して説明する。

1 (理由不備の論旨について)

原判決は,その理由中の(事実認定の補足説明)の項において,被告人が昭和53年ころに右Kとの間で行っていた金地金の取引状況,及びそのころ被告人が右Kのほか本件でも共犯者として関与しているTやYらと共謀の上,韓国へ金地金を密輸出したとして関税法違反の容疑で起訴されたが,被告人においては右Kらが密輸出をすることの認識がなかったとして無罪判決を受けたこと,その後も被告人はKとの間で航空便や銀行振込によって少量の金地金の取引を細々と続けていたが,昭和61年5月ころからにわかにその取引量が従前の10倍前後に増加し,やがては月2回くらいの割合で相当多量の金地金を被告人自ら携行して深夜あるいは早朝S市の前記倉庫に運び込み,現金と引換えにこれをKに引き渡すようになったことのほか,被告人の金地金調達の方法やKとの代金決済方法,前記倉庫の所在場所,構造,出入口や窓の遮蔽や目張りの状況,被告人の眼前で行われる金地金の箱詰め,梱包の方法や模様,その場の雰囲気などを詳細かつ具体的に認定した上,本件に関連する金地金の取引は,その取引の態様,場所,運搬方法や梱包状況等それ自体が特異である上(被告人自身,捜査段階での供述調書において,このような梱包をするのを見たことは本件が初めてであること,通常はそのような梱包の必要もないことを認めている。…証拠の摘示省略…),その回数,期間,数量等の点において,右Kが被告人に対して,問題はないが表には出したくない旨申し向けていたという取引としては(すなわち,Y県下最大の経済都市とはいえ,中規模の地方都市で,しかも前記のような事件で有罪判決を受けたKの行う取引としては),著しく不自然である(ちなみに,被告人の員面調書によれば,被告人の顧客の中でも,Kは最も大口の取引相手で,他の客との取引量は,多くてもせいぜい月平均10数キログラム程度であることが認められる。)と認定判断しているのであって,そこには何らの不合理も認められない。これらの点が何ら奇異でも不自然でもないとする所論は,金地金の取引がとかく資産隠し等の手段に悪用されやすい昨今の風潮を考慮に入れるにしても,この種取引のほとんどすべてが何らかの脱法行為か違法行為であるとの認識を前提とした独自の議論であって(しかも,被告人自身がそのような認識であったというのなら,本件におけるKとの取引が何らかの犯罪,なかんずく前記の起訴された経験に照らして先ず第一に密輸出に関係するのではないかと疑うのが当然である。),所詮は見解の相違にすぎないか,あるいは後記の事実誤認の主張に帰すべき筋合いのものである。よって論旨は理由がない。

2 (事実誤認の主張について)

被告人の本件密輸出についての知情を認定する根拠については,原判決が前記(事実認定の補足説明)の項で詳細に説示しているとおりであり,当裁判所もこれを正当として是認するものである。

所論は,原判決が認定した前記のような具体的事実につき,その一つひとつを分断してこれが何ら知情の根拠にならない旨主張するのであるが,1個の統一的人格としての被告人の認識内容を判断するのにこのような思考方法をとること自体が当を得ないことは論ずるまでもなく,相互に関連しつつ生起する客観的事実を総合してこれを全体的に考察することにより,初めて被告人の認識内容の真相をうかがい知ることができるというべきところ,原判決は,この間の消息を踏まえた上で,前記のとおり,本件各犯行に関わる客観的事実関係を的確に認定し,これに基づいて合理的に判断した結果正当な結論を導いていることが認められるのであって,そこに所論指摘のような事実誤認は存しない。

また所論は,被告人がかって起訴された前記事件の内容は,その取引態様等において本件と共通する点が極めて少なく,したがって右のような経験も,本件取引につき,被告人にとって何らの警鐘ともなり得なかったのであるから,右事件に関わったことをもって被告人の知情の根拠とすることはできないと主張するのであるが,通常人の感覚からすると,一度このように重大な不祥事に巻き込まれて苦い経験をすれば,二度と同じ轍を踏むまいとしてこれまで以上に用心をし,警戒するのが当然であると考えられる上,まして前記のように,同じ人物との取引において,途中から取引量や回数,取引態様等がにわかに変化してきて,それ自体特異な,あるいは不自然な様相を呈してきたという事実がある以上,それが前に経験した取引態様と様相を異にするとしても,そこに少なからぬ疑惑を感じ,したがって更に用心を重ねて慎重に対処してしかるべきところを,被告人の弁解によれば,何らこのような点に思いを致すことなく,特段の不審の念も抱かずに取引を継続していたというのであって,このような不自然な弁解をすること自体,被告人において,前記Kらが本件密輸出をすることにつき,少なくとも未必的にその情を知りながらあえて本件犯行に及んだものであることを推認する根拠のひとつとなり得ると言っても過言ではないというべきである。

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